榎本 千賀子|Chikako Enomoto
都市において、都市とともに
新潟の街を日本海に向かって歩く。海岸線に近づくにつれて、急な上り坂が現れる。信濃川と阿賀野川、 そして日本海によって、1700 年ほど前に形成された砂丘である。時間とともに安定したこの砂丘の上には、規格化された建築資材を用いて、とりたてて珍しくもないはずの工法で建てられた戸建てやマンションが建ち並んでいる。半世紀ほどの時を経た、新しくも古くもない住宅地だ。
長く住んだ東京西部を離れ、新潟砂丘の上に暮らして2 年が経った。私の目の前にあるのは、東京に住んでいた時に目にしていたのと、さほど変わらない「どこにでもある」風景なのかもしれない。しかし、建物や道幅のわずかなスケールの違いや、潮風や厳しい冬の風雨が建物に与える質感、 舗装をめくれば忽ち現れて知らぬ間に室内にまで入り込む砂、めまぐるしい天候の変化とともにある日本海側の光、家々の向こうに常に身近に押し寄せている海と川の気配が、私の身振りを変えてゆく。「風土」と呼ぶには躊躇を覚える、けれども現代の都市にも確実に存在する固有の姿に背を押されて、その固有性を支える個別の光や色や空間のありさまに、不用意かもしれなくても手を伸ばす。
水とともに流動し続け、今なお刻々と姿を変えようとするこの土地で、ありふれた手段を用いて、目の前にある日常とほとんど何ひとつ変わらないかのように平明に、新たな都市を夢見る作法を探している。常に目の前にあり、なんの秘密もなくあっけなく開示されているものと、格別の注目を浴びることのないひとつひとつの行動が問題である。東京で写真を撮りながら見つけた問題を追いながら、変容に向けた探査の具体的な形が、新潟において、新潟とともに流動してゆくことを、私は今、喜びとともに味わっている。
1981 | 埼玉県生まれ |
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2010〜2011 | 写真展示スペースBroiler Space(東京・桜上水)を小松浩子と共に運営 |
現在 | 新潟在住、新潟大学人文学部助教 |
個展 | |
2015 | 「都市と都市:新潟」 新潟絵屋 新潟 |
2014 | 「The City and The City:Tokyo」 新潟絵屋 新潟 |
2013 | 「INVENTION」 Gallery 10:06 大阪 |
2011 | 「bypass」 Toki Art Space 東京 |
2010 | 「OGU MAG企画展White Frame vol.3 Chikako Enomoto “Reflections”」 OGU MAG 東京 |
2009 | 「AX」 Musee F 東京 |
2007 | 「Absolute Reasons」 表参道画廊 東京 |
2005 | 「DAEDALUS」 Musee F 東京 | グループ展 |
2014 | 「Mystery Train あやしうこそもの狂ほしけれ」 表参道画廊 東京 |
2013 | 「リフレクション」 Place M 東京 |
2011 | 「新潟発・日本の発見 映像と記憶のアルケオロジー 1865-2011」Maison du Japon パリ |
2010-2011 | 「Monthly Exhibition #01-10」 Broiler Space 東京*小松浩子との連続二人展 |
HP:Chikako Enomoto Web DAEDALUS https://sites.google.com/site/chikakoenomoto/