・平面になる、フレーミングされるということを意識せずに写真を撮ることが出来ません。写真を撮るときは平面、フレーミングということに一番気をつかうということです。それでも今回はそこから逃れようとする力が働いたりもしているのです。それは「パッと撮る」という行為に現れますが、「パッと撮る」行為の中にはもう身に付いてしまった何者かが潜みがちで、その潜みがちな何者かをどのようにして追い出すのか、あるいはどのようにして表に出さないようにするのか、というのが今回の「パッと撮る」の中に含まれていたように思います。
・曇っている日より晴れている方が撮影意欲がわくということは写真には光が写るという当たり前のことに対して何かしらの欲求があるのだろうと思われますし、実際晴れていると気分がいいです。雲を介さない太陽光線を浴びる気分の良さは確かに写真に影響を与え、太陽の光によって出来る影、明暗のコントラストという視覚的な要素だけでなく、太陽光線の熱が肌にぶつかる感じ、青い空の下を歩いている気分のよさといった様々なことの結果として写真は出来上がります。が、それらのことは写真になった途端にほとんど抜け落ちてしまうのでこういったことは撮る側だけの問題なのかもしれません。
・撮影している場所は山の中です。平らなところがほとんどありません。関東平野のように広々と横に広がる風景ではなく(とはいっても東京は建物で視界が塞がれてしまうので横に広がっているとは感じにくいですし、微かな起伏は常にあるのですが)、起伏のある場所で、山の斜面に人が暮らしています。だから移動するということは斜面を上り下りすることとなり、その場所に慣れないわたしは普段使うことのない筋肉を使い、細いでこぼこした坂道を体のバランスを保とうとして歩くことになります。その場所で撮影しているとどうしてもその場所の起伏と体の関係を意識してしまいます。
・起伏のある場所を歩いているときの体に感じる感覚をそのまま再現できるとは思っていませんが、(ぜひともその場所を歩いてもらいたいとは思うのですが)写真という平面を見ることでまた別の感覚を、歩いているときとは違うけれども、それに類似した感覚、類似していなくてもいいのですが、いや、類似などしていない、まったく別の感覚なのかもしれませんが、何かが出てくればいいとは思っています。
・撮影している場所は山の中だということですが、もう少し詳しく言えば実家の近くです。さらに詳しく言えば紀伊山脈です。実家の近く、なんて言ってしまうと「故郷」や「ふるさと」というような言葉、あるいは観念?と結び合わせたがる人がいるのですがそのようなことはまったく思っていません。それでもその場所を撮ろうと思ったのは、斜面を上ったり下りたりする体がその場所とすんなり馴染んでしまった、あるいは体が様々なものを受け取ってしまった、ということなのでしょうか。
・撮影しているときに人がいれば話を聞くこともあり、聞く相手はほとんどが年寄りだから話す内容は過去の話になり、聞いて頭に残った話から想像できる風景と目の前にある風景がどのくらい違うのか、またはどのくらい同じなのか、草の生えた土、石を積み上げた階段などの道を歩くとき、この道や階段はいつからここにあるのか、そのような圧縮された時間を写真から読み取ることは可能ですが、それはその場を歩いているときに感じる時間の厚みに比べれば到底かなわないことで、写真に写り込むのはわずかなことでしかありません。
・山の中の集落の風景には人の「痕跡」を感じるのです。様々なことが細分化され、ほとんどのことに対して専門的な知識を持っていないわたしが読み取れるその「痕跡」の裏側には、人がまだ住んでいなかった頃のその場所の風景が隠れています。それが時間の厚みです。
・一歩進むたびに目に入る風景は変わります。起伏のある場所での一歩と平坦なところでの一歩は風景の変化の仕方が違います。斜面に向き合うようにして坂道を上っているときには手の届く範囲にある様々なものがそれこそ触れるように見えているのに、振り返って後ろを見れば遠くに連なる山々の姿や空に浮かぶ雲が目に入ってくるのです。そのような場所を歩くのはただただ楽しいです。そしてその楽しさは写真には写りません。
1973 | 奈良県生まれ |
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1996 | 高知大学理学部生物学科 卒業 |
個展 | |
2005 | 「bee fly」コニカミノルタプラザ |
2007 | 「over the river」コニカミノルタプラザ |
グループ展 | |
2007 | 「Mess」表参道画廊 |
2008 | 「Invisible moments」UP FIELD GALLERY |
2009 | 「LAND SITE MOMENT ELEMENT」UP FIELD GALLERY |
2010 | 「ながめる まなざす」UP FIELD GALLERY |
2011 | 「フウケイ」UP FIELD GALLERY 「STREET PHOTOGRAPHS」TAP Gallery |
賞 | |
2006 | コニカミノルタフォトプレミオ大賞 |